2008年5月3日土曜日

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『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』樋口真嗣監督
黒澤明監督の作品には勇気づけられることが多かった

  Date: 2008.05.03.
  From: http://www.varietyjapan.com/
  URL: http://www.varietyjapan.com/interview/2k1u7d00000150w2.html


 アニメーション作品の製作で評判をあげ、『ローレライ』『日本沈没』と、実写映画でもヒット作を生み出してきた樋口真嗣監督。新作は、巨匠、黒澤明が50年前に作った『隠し砦の三悪人』を基に、新しいアクション・エンタテインメント作品として再生させた『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』だ。黒澤のオリジナルは、ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』を作るきっかけになった作品としても知られており、樋口作品は、そのルーカスの母校であるアメリカ・ロサンゼルスにある南カリフォルニア大学で特別上映された。ロサンゼルスを訪れた樋口監督に、その日の心境と映画の製作秘話について話を聞いた。

エンタテインメントの本場で観客が盛り上がっているのがうれしい
ずいぶん会場が盛り上がってますね。

樋口 うれしいですね。こういう反応にならなかったらどうしようという恐怖があったんですが(笑)。

思い描いていたとおりの感じですか。

樋口 そうですね。ウケてましたよね! どかんどかん。日本ではまだ試写の段階だったので、どうしても冷静に見てしまう傾向があったので、面白がってくれてるのかどうかちょっとわからなかった。でもこうやってエンタテインメントの本場で、みんな笑って喜んでたりするのを聞くとうれしいですね。

時代劇というジャンルには、以前から興味がおありになったんですか?

樋口 そうですね。なかったといえば嘘になりますけど、どうしても時代劇ということではない。ただ日本人が作るエンタテインメントの形として時代劇は突破口になるのではないかと、ずっと思ってました。

日本人の心をハリウッド的なダイナミックなエンタテインメントのスタイルで描くのが樋口監督の特徴だと思いますが、よく、それがこの作品に出ているなと思いました。

樋口 ありがとうございます。

黒澤明を知らない人たちに観てもらうために工夫を
若い観客に向けてアピールしようという意識はあったんでしょうか?

樋口 意識しているわけではないですけど、若い、黒澤明を知らないユーザーに注目して欲しい、ぜひ観てもらいたい題材だし、そのためにいろいろな工夫というか、変更をしました。

具体的には?

樋口 キャストを若返らせるとか。あくまでも、若くて未来が決まっていない者たちの物語にした。彼らはこれからどうなるんだろう、というような、不確定な若さが登場人物に必要だった。どうしても前作のような藤原(釜足)さんや千秋(実)さんのようなおじさんが農民だと、彼らの人生は誰が見ても変わらないと思うんですね。ところがやはり武蔵(松本潤)という若い主人公を設定すると、彼はこれからどうなるんだろうという、ある意味スリリングな部分を含めて、もしかしたら悪くなるかも知れないし、正義に走って侍に近づこうとするかも知れない。そこにどれくらい観客が共鳴できるかというのがこの物語の肝だったので。

特に、自分の欲に走っていた若者が、だんだんそれを捨てて人を守る部分が目覚めていく、という成長もありますね。

樋口 そうですね。そこは恐らく若くないとできなかったところです。若いほうがその変化をよりダイナミックに観客に伝えられるのではないかと。

オリジナルはロードムービー的な部分が強いと思うんですが、こちらはアクション・エンタテインメントですね。どういうところにポイントを置かれたんですか?

樋口 まあ、一番の違いは、姫が途中で捕らわれてそれを取り戻すというプロットです。前作にはありませんでしたが、前作の後半、農民たちがすごく受動的になって物語に参加しなくなってしまう。そこが僕は不満だったんです。身分とか関係なく、やはりこう能動的に動いて欲しいんですね。登場人物である以上。能動的に動く理由とは何かなと思ったときに、ぱっと思いつくのは恋愛だったんです。

松本潤くんという最高の武器を最大に利用しなければ
そのロマンスを入れる、入れないというところで、ちょっとした議論があったのではないかと思ったのですが。

樋口 まったくないです。そこが現代の若い観客に訴える最大の要素であると思うんですね。それは今回、松本潤くんという最高のキャストを我々が手にいれた以上、その武器を最大に利用しなければいけない。それは何かというと、彼と擬似的に恋愛が出来るという体験を、やはり、若い女性観客に味わってもらいたい。

すごくパーフェクトな感じで、彼に守ってもらいたいなと思わせるようなところがありますよね。

樋口 ええ。映像を観ている間、彼と旅をしていくというひと通りの感情を、やはり僕はお客さんに、特に女性のお客さんに味わってもらいたいです。逆に男性のお客さんは、自分が松本くんの武蔵になって姫を守ってあげるという行動に自分をだぶらせる。武蔵かもしれないし、六郎太(阿部寛)かもしれない。新八(宮川大輔)かも知れないですけど。どれでもいいですけど、どこかに自分をだぶらせることができるんじゃないかと。やっぱり体験的に観ることができる映画が僕は大好きだったので。

そもそも武蔵役に松本さんというのは思い切ったキャスティングだったのではないかと思います。面白い役だと思いますが、いわゆるヒーロー役ではない。最初の段階ではその辺はどういう話だったんですか?

樋口 僕には松本くんに最初からストレートに武蔵役のイメージがあって、むしろ彼が我々のオファーを受けてくれたことに最大の幸運があったと思っています。むしろ脚本は、今回のキャスト全員をイメージした上で物語を作っていきました。だから、まったく役のイメージからかけ離れたことにはならない。ただ我々が思う武蔵のイメージと、松本くんがどうそれをすり合わせるか、そこは準備の間に話し合ったりしながら作っていきました。

本人には言っていないけど、こういうところがすごいと思った部分はありますか?

樋口 いろいろなアイデアを毎日のようにもらうんです。彼は誰よりも真剣にスクリプトを読んでいて、もしかしたら私よりも読んでいるかも知れない。私よりも武蔵のことを真剣に考えている。彼から出た最大のアイデアというのは、途中で姫のことを「雪」と呼ぶこと。最初のスクリプトでは、「おまえ」とか「おめぇ」っていってたのが、最後までそれだったんですけど、彼のなかで自分の恋愛感情を、彼女をどう呼ぶかというところで変化をつけたかった。素晴らしいアイデアをもらったな、と。

黒澤監督の作品には勇気づけられることが多かったです
黒澤監督の作品をかなり研究されましたか?

樋口 研究というか、メンタルな部分で勇気づけられたというか。50年前の先輩はどのような作り方をしたのだろうかと思ったときに、大変だったのは僕たちだけじゃない(笑)と勇気づけられることが多かったですね。

黒澤監督の作品はシーンの切り替えのところで横からのワイプ(注:次のシーンの映像が横からスライドして現れるように見せる手法)を使われていますが、今回の作品は、紙の向こうからジワーっと映像が出てくるような手法を使われていますね。

樋口 そうですね。実は最初はまったく同じスタイルで、ボケたワイプを使ってやってみたんですが、それはあまりにも同じだなと思って。『隠し砦の三悪人』でもそうだし、『スター・ウォーズ』でも同じだったんですね。同じだとほんとにコピーのように思えてきてしまって、もうひとつ工夫をしたいなと。あれは実は、和紙に墨で書きなぐったものを素材として使っているんです。墨で書いたものが滲んでいるんです。

鎧の音などは、革新的なものを作ろうと話し合いました
音では、馬の音とか甲冑の音とか、そういうところも初めてのジャンルだと思うんですが。

樋口 その辺も相当工夫というか、目立っていろいろなアイデアを作り込みました。今日本でおそらく一番マネーメイキングなサウンド・エフェクトマンがいるんですけれども、柴崎憲治という男なんですけど、彼は大島渚さんの『御法度』という映画で、初めて日本刀に対して金属の重たい質感をつけたんですよ。それまでクラシックな時代劇の刀のキーンキーンという音だったんです。それがガキンガキンという強い金属の塊がぶつかりあうような音を、彼が初めてその時にクリエイトして。それ以降そういうのが流行したんですけど、それと同じような、革命的な新しい鎧の音や馬の息遣いとか、これから何十年か先、流行になるような新しい音を作ろうと話し合って。だから、あれは全部現場の音ではないんです。

具体的に言うと?

樋口 本物より重たいもので音を作ってるんです。当然そうなんですけど、ある程度軽くないと甲冑って動けないんで、実はそれほど聞こえのいい音ではないんですね。軽い音なんですけど、それではちょっと映画にならないんで、通常であれば着ることが出来ないくらい重たい——、西洋甲冑ってありますよね——それを用意してスタッフの1人に着せて音を作ってるんです。

黒澤監督は甲冑のデザインにかなりこだわられて、国宝まで持ち出したという話もありましたけど、樋口監督はデザインにはこだわられたところはありますか。ネタバレになっちゃうかもしれませんが、『スター・ウォーズ』へのオマージュもありますよね?

樋口 はい、オマージュです。基本的には、日本にあった甲冑の部品を使って組み合わせているんですよ。悪い人間の象徴ということで作ると、どうしてもはあの形が一番説得力がある。観客にとっても説得力があるし、もしかしたら、かつて『隠し砦の三悪人』が『スター・ウォーズ』になったように、我々が『スター・ウォーズ』から影響を受けた痕跡を残したかった部分も。遊んではいますけど、嘘はついてない(笑)。

基本的にCGだけというカットはないんです
監督はCGを得意としていらっしゃいますが、今回は様々な手法のブレンドですね。

樋口 基本的にCGだけというカットはないんですよ。全部なにかしら本物というか、ミニチュアだったり、爆発も別々に爆発をさせたフィルムを組み合わせていて、厳密に言うとCGではないんですよ。CGを使ったのは弓矢とか新八の投げるつぶてぐらい。エレベーターの壁(を隠す部分)であったり。そのぐらいしか実はCGと呼べるものはないんです。あとは全部本物を組み合わせる形でデジタル技術を使っています。

武蔵と新八が走っているところで砂煙がすごくあがっていますよね。あれはCGですか?

樋口 いえ、CGではないです。あれはロージンバッグといって、ピッチャーが球のすべりを止めるために使う白い粉が入っている袋がありますよね。あれと同じ様な袋を彼らの体中につけているんです。

それがパーっと出るように?

樋口 そうですね。あそこはシルエットを強調するために、ロージンバックで輪郭を際立たせています。一番大変なのは演じている本人たちなんで。埃まみれで呼吸すら出来ないくらいです。

阿部さんは今の日本では一番三船敏郎に近い
六郎太役は、前作で三船敏郎さんの演じられた役ということで比較されがちだと思うんですが、配役を阿部寛さんにされたというのはどういう感じだったんですか?

樋口 身長と……、まあ大きさでいうと三船さんよりもかなりでかいんですが(笑)。存在感をなにで見せるかというと、本当に現実的な大きさで見せるのが一番いいのではないかと。そうしたときに大きくて強そうで、命令を守る誠実で忠実なボディガードとして見せたかったので、そうすると誰かなと。前回の六郎太というキャラクターは、結構姫をおいてけぼりにして戦いに行っちゃったりするんですよね。途中の戦いの場面では、おまえは姫を守らなくていいのか? と僕は思う(笑)。そんなわけで、自分のために戦う男ではなくて、あくまで姫を守るために存在するような。今回、六郎太というキャラクターを忠実に掘り下げて。そうしたときに阿部寛さんが一番最適だと。あと本人が何よりも馬に乗れたり、古武道のマスターだったり、今の日本では一番三船に近いというか、ある意味、三船も超えた部分があるのではないかなと。

オリジナルでも有名な馬で追いかけるシーンはすごく迫力がありましたね。

樋口 そうですね。あのシーンではびっくりするくらい阿部さんが三船敏郎さんにライバル心を燃やしていて、三船さんと同じアクションをしたいと。それで2カ月の間に手放しで馬に乗れるくらいマスターしたという。ものすごく練習して、スタントなしです。ただし、危ないことなんで、のめりこみすぎて怪我をされたら一番怖いんで、その辺の判断の仕方に絶えず冷や冷やしてたんです。うまくいったところで、本人的にはもう一回やりたいと言ったんです。もっともっと追求したいというところを心配しなくて大丈夫と。そういう瞬間が何回もありました。

コメディアンを起用するキャスティングのバランスは黒澤監督の真似を
脚色をされたのが(劇団☆新感線の作家の)中島かずきさんで、お笑い的な要素がかなり入っていますが、監督ももともとお笑いがお好きなんですか?

樋口 お笑いだけを観続けているわけではないんですけど、コメディ・リリーフというのはどうしても必要なんです。さらに役としてだけではなくて、いるだけで面白くなくてはいけない。実は黒澤監督の映画でも必ずコメディアンが物語に出てくる。それは昔の左卜全さんとか、最後の所ジョージさんとか、その時代を代表するコメディアンが必ず黒澤監督の映画に出ていた。キャスティングのバランスは黒澤監督はうまかったと思うんですね。そういうのは積極的に真似させていただきました。じゃあコメディアンといっても誰がいるか。それで今回、宮川くんを起用した。彼はコメディアンでありながら舞台俳優としても相当場数を踏んでいるので、まったく心配はしませんでした。それと、こいつは誰だというサプライズが欲しかったんですね。観ている人が誰だかわからない男がすごい存在感だというサプライズを作り出すことが、映画のキャスティングの醍醐味だと思うんです。そのために、いろんな人たちを説得しなければならなかった。みんなは知らないけど、こいつは素晴らしい俳優なんだと説得するのが一番大変だったかも知れない(笑)。

長澤さんは二度と馬に乗りたくないんじゃないですか
長澤まさみさんは馬に乗っていますけど、役のために練習されたんですか?

樋口 そうですね。たぶん、二度と乗りたくないんじゃないですか(笑)。苦手だったみたいですけど、相当怖がりながら。

もともとオリジナルでも男勝りな姫という役ですが、現代風にするために工夫されるところはあったんでしょうか。

樋口 そうですね。単なる男勝りではなくて、どこかで自分の居場所に疑問を抱いているということで悩んでいる。その悩みを誰かの影響で解決していくというような成長の要素を姫にも入れたかった。それをどうやって恋愛の要素と絡み合わせて結実させるかというのがあったんです。2人が近づき、身分を越えて、男と女として並んだあたりは、もしかしたら強引に現代的にしちゃったかもしれないです。ふたりが火祭りで踊るあたりは時代劇的ではないけれど、もしかしたらエキサイティングになるのではないかと結構無理にやってみました。

最後に、ハリウッドへの進出について。

樋口 いやー、ねぇ、やっぱりハリウッドというのは正直いろいろな形があると思うのでわからないですね。別にアメリカに限らずどの国でもそうですけど、観客に喜んでもらえるのが一番作っててよかったと思う瞬間で、これ以上幸せなことはありません。今日も、すごくストレートなリアクションが帰ってきてうれしかったですね。なにより観客に感謝したいです。

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