黒澤以上に黒澤らしくて裏切り御免!
Date: 2008.05.14.
From: http://www.varietyjapan.com/
By: 樋口尚文
URL: http://www.varietyjapan.com/review/2k1u7d000001ngbw.html
『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』
●2008年/日本/ビスタサイズ/ドルビーデジタル/118分/5月10日から日本公開開始
●配給:東宝
物語の結末に触れています。映画をご覧いただいてから、お読みいただくことをおすすめします。
黒澤映画ファンにも『隠し砦〜』への偏愛強し
『隠し砦の三悪人』といえば、一も二もなく「裏切り御免!」である。この黒澤明の旧作を未見の若い観客のために詳しい解説は伏せおくとして、「裏切り御免!」の名セリフで急展開する旧作の結末部は、そこへ至る筋書きが他のスリムな黒澤映画に比べると冗長でばらついているなあと思った観客を、一気にスカッと満足させたに違いない(旧作は同じ活劇でも焦点がシンプルに絞れている『用心棒』や『椿三十郎』などに比べると、いろいろな趣向が盛りだくさんで尺がうねうねと長いのである)。だから逆に、狙いすました傑作よりも、いつになく黒澤がゆるゆると派手な挿話をコラージュしながら、最後に強引にマクリをかけてまとめあげた『隠し砦』を偏愛するファンも少なくないだろう。
リメイク版は、ヒロイックな「裏切り御免!」
邦画大作の妙味、珍味に育てられたわが樋口真嗣監督も、このほとんど終わりよければ全てよしという感じの「裏切り御免!」には相当シビレた口に違いない。逆にいえば、樋口真嗣監督は今回のリメイク版を作るにあたって、いかにこの「裏切り御免!」を自分なりに超えるかというミッション・インポッシブルを抱え込まざるを得なかったはずである。私は早々に試写室に滑り込んで、その1点に大いなる不安と期待を寄せてスクリーンを見つめていたのだが、どうしたことか「裏切り御免!」の鍵を握る田所兵衛(旧作では藤田進が扮した)が出て来ない。ひょっとすると、やや藤田進風味の高嶋政宏扮する関所の役人がそれに相当する人物なのかと思いきや、雪姫一行を見逃して上司に痛めつけられた田所兵衛以上に冷遇される彼は、山名の侍大将・鷹山刑部(椎名拮平)にばっさり斬り捨てられる。では、懸案の「裏切り御免!」はなくなってしまったのかと思いきや、意外なところで意外な人物が二度も口走ってみせるのであった(詳しくは書かない)。脚本の中島かずきによるその翻案の切り口は、ひとことでいえば「ヒロイック」である。今回は少年マンガ的な熱血ぶりでこの名セリフは語られ、それはそのままリメイク版全体の基調ともいえるだろう。
すなわち、旧作の「裏切り御免!」の痛快さの底にあったのは、フレキシビリティであり飄々としたおかしみであった。黒澤明はしばしば物語において重要なのは「ヒューマー」であると語っていたし、諸作でその寛容なおかしみを狙おうとしていたが、そういう「ヒューマー」の軽みはあまり確認できない(ドキュメントで見るような、とことん手厳しい黒澤を畏怖して俳優たちが硬直し蒼ざめているような現場では無理もない)。
だが、旧作『隠し砦』の「裏切り御免!」はほとんど黒澤らしくなく軽快かつ人を食っていた。ところが、リメイク版の「裏切り御免!」は逆にいつもの黒澤明ふうに、やけに力がこもった「ヒロイック」ぶりなのがおかしい。
樋口監督の前作への溺愛と、意気込みに満ちた快作
だから、旧作の黒澤らしからぬ軽みに惹かれていた向きは、リメイク版の予想外の直球の熱さ、「いつもの黒澤」がのりうつったような熱さに違和感を覚えるかもしれないが、しかし樋口真嗣監督は本作をきっぱりとそういう狙いにすべく舵をきっている。そのための大きな違いとして、前作が特定の姿なき大きな敵からのすっとぼけた逃亡劇だったのに対して、今回は秋月の雪姫一行に対する鷹山刑部を鮮明な敵方として登場させ、この悪役との対決劇というかたちに全篇を書き直した。
その狙いにシンクロして、旧作でコメディ・リリーフを担当していた太平(千秋実)・又七(藤原釜足)の脱力コンビが、今回は武蔵(松本潤)・新八(宮川大輔)というけっこう二枚目半的に逞しく戦うコンビに改変され、雪姫(長澤まさみ)も前作の飛びぬけたお嬢ふうの上原美佐よりも一段と気性の激しいおてんばプリンセスぶりを発揮、旧作のハイライトであった六郎太(前作は三船敏郎、今回は阿部寛が扮する)の騎馬武者追尾のアクションシーンでも、率先して馬を疾駆させるわ弓を射るわの奮闘ぶりである。
こういう男のコっぽい翻案を愉しめるかどうかは観客の好みにかかっているかもしれないが、ダース・ベイダーふうの鷹山刑部の衣装やインディ・ジョーンズふうの山名の砦など旧作を本歌取りしたハリウッド大作にも目配せした本作は、『日本沈没』同様、とにかくリメイクするからには別の趣向で、という樋口真嗣の意気込みに満ちた快作であった。大胆な改変も、それはそれで前作を溺愛していないとなかなか出来ない技である。
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